Current Research Topics


【研究の方向性】
The Research Direction

わたしたちの研究室では陸域において水文循環の一部を構成する【流域】を基本的な単位として考えます。そして、それら流域で展開される土地利用や経済活動など【わたしたち人間】がつくる社会環境と、水資源、洪水・渇水、生態系など【河川水系】がつむぐ自然環境とのあいだのさまざまな課題を【流域】という枠組みから研究します。







【現在の研究プロジェクト】
Current Research Projects

流域河川水温のモニタリングと解析
Monitoring and Analysis of Stream Temperatures in a River Basin

河川流域では、農業、工業、そして都市や街での生活など、人々が日々の暮らしのためにいろいろな営みを展開して自然から恩恵を受けています。このことは一方で、流域のさまざまな環境に働きかけて、それらに負荷を与えていることにもなります。この21世紀は、河川流域で展開されるこれら人々の暮らしの営為と自然環境とのバランスを考えながら、将来世代にわたり持続発展が可能な人間の心にそう流域環境整備がもとめられるべきだと考えます。

この研究では、河川生態系におおきく影響する河川水水温を流域の水環境を推しはかる指標と考えて研究の対象にしています。河川水温は流域での土地利用などの社会環境の変化や、気温や雨の降り方など自然環境の変化にとても敏感だといえます。すなわち、森林や農地の開発、都市化、ダム貯水池や河道整備をはじめとする人々の営為、IPCC報告などにある将来のグローバルな気候変動などに河川水温が影響され、さらに続いて生態系、そしてそれらから恵みを受けるわたしたちの生活が大きく影響されることがおおいに予想されます。

この研究では流域を各部に分断して考えるのではなく、水循環にしたがって源流から河口まで流域を一貫するかたちでとらえ、河川水温の形成機構、変化の過程、予測モデルを総合的に検討します。一級水系揖保川の流域を試験流域として現地での水温モニタリングを継続して実施し、同時に、流域の地形特性を取り入れたネットワーク型の新しい河川水温の予測モデルを考究します。



◎ 最近の論文・発表
  • 浦野ら: 河川流域の流水水温形成における基底流出水温の影響について, 土木学会論文集B1(水工学) Vol.69, No.4, I_1681-I_1686, 2013.
  • Miyamoto, H. et al: Analytic Investigation on Main Drivers of Stream Temperature Formation along a Stream Network in a River Basin, Abstract H51M-06 presented at 2012 Fall Meeting, AGU, San Francisco, Calif., 3-7 Dec., 2012.
  • Miyamoto, H., et al.: A stream order network model for predicting basin-wide distribution of stream temperatures, Proceedings of the 34th International Association of Hydraulic Engineering and Research Congress, Proc. CD-ROM, 2011.



流域の地形特性に基づく社会環境と自然環境の総合評価手法の開発
Development of Integrated Assessment Methods for Social and Natural Environments Based on Basin-Scale Hydro-Geomorphology

わたしたち人間が生活する大地は大小さまざまな流域に分けられます。世界で一番面積が大きい流域はご存知のようにアマゾン川(約7,050,000km2)であり、日本では利根川(約16,840km2)となります。また、わたしたちの研究室でモニタリングしている揖保川(約810km2)も、数ある流域の中ではたいへん小粒ですが、水文循環のなかにあって源流から河口までをふくむひとつの流域です。

このように地理的条件が大きくことなる流域で、わたしたち人間は安心・安全に日々の暮らしを営めるように時間をかけてさまざまな工夫をしてきました。その結果として、現在のかたちで森林や水田、農地、河川、湖沼、市街地などさまざまな土地利用の形態が一つひとつの流域で展開されています。人間の社会と大地の自然がそれぞれの流域において、時間をかけて交絡してきたひとつの帰結といえるのではないでしょうか。

この研究では、このような社会と自然がそれぞれの流域でどのように特徴的に展開されているのかを計量的に明らかにすることを当面の目的とします。またその結果をうけて、わたしたちの日々の暮らしの営為が流域の水環境に及ぼす影響を明らかにすること、さらに、将来にむけて人間の心にそうような持続可能な流域環境とは如何にあるべきかを科学的に議論すること、を目標としています。

この研究では現在、日本の109の一級水系を対象にして流域の地形特性を取り入れた社会環境や自然環境の新しい統合型数理モデルを考究しています。解析には地理情報システム(GIS)や最新の情報科学を積極的に導入するように心がけ、可視化情報により結果をわかりやすく示すことを目指します。



◎ 最近の論文・発表
  • 石田ら: 気候・地質・土地利用の影響を考慮したリンクマグニチュードによる河川水系の流況推定, 土木学会論文集B1(水工学) Vol.68, No.4, I_487-I_492, 2012.
  • Miyamoto, H.,et al.: Basin-Wide Distribution of Land Use and Human Population: Stream Order Modeling and River Basin Classification in Japan, Environmental Management, Volume 47, Number 5, pp.885-898, DOI:10.1007/s00267-011-9653-0, 2011.
  • 宮本ら: 流域面積の累積分布曲線, 土木学会論文集B1(水工学), Vol.67, No.4, pp.I_649-I_654, 2011.



    河道内樹林の動態解析
    Vegetation Dynamics in a River Network

    河川を河口から上流へ遡っていくと河道内に大小さまざまな砂州が現れます。その砂州の中には、ここは本当に河川なの? と見間違えるほどに柳や竹などの大きな樹木やたくさんの草木が繁茂するところが見られます。このような河道内での樹林の発達は、ひとつには、人びとが安全・安心に暮らせるように時間をかけて河川流域を整備し、また河川自身へ働きかけたことにより河川への流出特性がおおきく変化した帰結と考えられます。

    この河道内樹林は、日々の河川生態環境にとってとても大切な役割を果たします。しかし一旦非常に大きな洪水になると、こういった植生群落も流れを妨げ、水位を上げる流水抵抗になり、沿川で生活する市民の危険度が増すことになります。

    この研究では、河道内樹林など植生群落と河川の流れ、特に出水時の洪水流との関係を学術的に検討します。【流域環境】の視点を念頭において、植生の消長過程をふくむ【生態環境】とわたしたちの日々の暮らしを守る【治水機能】との共生の道筋をみいだすことが目標です。

    この研究では加古川を対象にして河道内樹林の現地調査を継続的に実施しています。加古川は兵庫県丹波市の粟鹿山を流源にして瀬戸内海の播磨灘に流れこむ、流域面積1,730km2の日本の一級河川です。



    ◎ 最近の論文・発表
    • 利守ら: 河道内の植生動態モデルにおける樹木の成長・死亡・新規参入, 土木学会論文集B1(水工学) Vol.69, No.4, I_1363-I_1368, 2013.
    • 木村ら: 河川水系の複数河道における樹林化傾向の感度分析, 土木学会論文集B1(水工学) Vol.69, No.4, I_1369-I_1374, 2013.
    • Toshimori, N., et al: Riparian Vegetation Dynamics in Interaction with Floods in a Stream Network Evaluated by a Stochastic Process Model, Abstract EP41H-06 presented at 2012 Fall Meeting, AGU, San Francisco, Calif., 3-7 Dec., 2012.
    • Miyamoto, H., et al: A stochastic model for tree vegetation dynamics in interaction with flood events, Proceedings of the 34th International Association of Hydraulic Engineering and Research Congress, Proc. CD-ROM, 2011.